
【懲戒解雇】要件やメリット・デメリット、手続きの流れについてわかりやすく解説
懲戒解雇は、企業が重大な規律違反をした従業員に対して実施する厳格な処分です。
しかし、解雇が無効と判断されるリスクや裁判対応の負担など、企業側にとっても慎重な判断が求められます。
この記事では、懲戒解雇の要件や企業側のメリット・デメリット、適正な手続きの流れについて詳しく解説します。
適用を誤ると法的リスクが発生するため、適切な準備と対応が不可欠です。
懲戒解雇を検討している企業担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
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目次[非表示]
- 1.懲戒解雇とは
- 2.懲戒解雇の要件
- 2.1.解雇の合理性・社会的相当性
- 2.2.就業規則上の根拠があること
- 2.3.解雇権の濫用に当たらないこと
- 3.企業側からみた懲戒解雇のメリット
- 4.企業側からみた懲戒解雇のデメリット
- 4.1.懲戒解雇が最終的に無効になるリスクがある
- 4.2.裁判になった場合の費用や労力の問題
- 4.3.敗訴した時の負担の大きさ
- 5.懲戒解雇手続きの流れ
- 5.1.問題行為の調査
- 5.2.懲戒解雇事由に該当するか検討
- 5.3.弁明の機会の付与
- 5.4.懲戒解雇通知書の作成
- 5.5.懲戒解雇の通知
- 5.6.退職に伴う事務処理
- 6.まとめ
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懲戒解雇とは
懲戒解雇とは、企業が従業員の重大な規律違反や不正行為に対して行う厳格な処分です。
通常の解雇とは異なり、退職金の支給が制限される場合があり、従業員の社会的信用に影響を与えます。
企業は、従業員の行為が就業規則に明記された懲戒事由に該当し、かつその行為に合理性・社会的相当性があると認められる場合にのみ実施することができます。
懲戒処分の種類
企業が従業員に対して行う懲戒処分には、以下のような種類があります。
- 譴責(けん責)・注意:軽度の違反に対する指導
- 減給:給与の一部を差し引く処分
- 出勤停止:一定期間の勤務禁止
- 降格・役職剥奪:職位の変更や降格
- 諭旨解雇:退職を促し、自主退職として扱う
- 懲戒解雇:最も重い処分で、即座に雇用契約を終了
解雇の種類
解雇には懲戒解雇以外にも以下のような種類があります。
- 普通解雇:業務能力不足や勤務態度不良を理由とした解雇
- 整理解雇:企業の経営悪化による人員削減
- 諭旨解雇:懲戒解雇に該当するが、退職金の支給など一定の猶予が与えられる処分
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諭旨解雇との違い
諭旨解雇は懲戒解雇と比較すると、企業側が従業員に退職を促す形で行われる処分です。
懲戒解雇の場合、退職金が支給されないことが多いですが、諭旨解雇では退職金の支給が認められることが一般的です。
また、諭旨解雇では従業員に対し「自主的な退職」を選択させるため、社会的信用への影響が懲戒解雇ほど深刻にはならない傾向があります。
懲戒免職との違い
懲戒免職とは、公務員に対して適用される処分であり、民間企業における懲戒解雇とほぼ同義です。
ただし、民間企業の懲戒解雇とは異なり、地方公務員法や国家公務員法に基づいて手続きが進められます。
公務員が懲戒免職となった場合、資格を喪失し、公的機関への再就職が難しくなる点が特徴です。
これは民間企業の懲戒解雇以上に影響が大きいことがあるため、厳格な手続きと判断が求められます。
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懲戒解雇の要件
懲戒解雇は、企業が従業員の重大な規律違反や不正行為に対して適用する最も厳しい処分です。
しかし、法律上、懲戒解雇が正当なものとして認められるためには、一定の要件を満たす必要があります。
これらの要件が欠けると、従業員から解雇の無効を訴えられる可能性があるため、企業は慎重な対応を求められます。
解雇の合理性・社会的相当性
懲戒解雇を実施する際には、解雇が社会的に妥当であるかどうかが重要な判断基準となります。
具体的には、従業員が行った違反行為が企業の業務運営に重大な悪影響を与え、かつ他の懲戒処分では対応が困難である場合、懲戒解雇の合理性が認められる可能性が高くなります。
例えば、横領や重大なハラスメント行為、機密情報の不正持ち出しなどは、企業の信用を大きく損ない、懲戒解雇に値する行為とみなされることが一般的です。
一方で、軽微な規則違反や業務上のミスに対して懲戒解雇を適用すると、裁判で「社会的相当性を欠く」と判断され、無効になるリスクがあります。
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就業規則上の根拠があること
懲戒解雇を正当化するためには、企業の就業規則に懲戒解雇の具体的な適用条件が明記されていることが不可欠です。
就業規則には、懲戒の種類や適用基準を明確に記載し、従業員に対して事前に周知しておくことが求められます。
例えば、「横領行為が発覚した場合は懲戒解雇とする」といった具体的な規定があれば、企業は適用条件に従って解雇を進めることができます。
しかし、就業規則に懲戒解雇の要件が不明確だったり、存在しなかったりすると、裁判で「予測可能性がなかった」として解雇の有効性が否定される可能性があります。
そのため、企業は就業規則の適正な整備と運用を徹底する必要があります。
解雇権の濫用に当たらないこと
労働契約法では、解雇権の濫用を禁止しています。
企業が懲戒解雇を行う場合、それが適切な理由に基づくものであり、合理的な判断であることを証明しなければなりません。
例えば、従業員の勤務態度が悪いという理由だけで懲戒解雇を行うと、解雇権の濫用に該当するとして無効になる可能性があります。
また、企業側の恣意的な判断で解雇を行うと、裁判で敗訴し、従業員に対して損害賠償を支払う事態になることもあります。
そのため、企業は懲戒解雇を実施する際に、証拠を十分に収集し、過去の判例を参考にしながら慎重に判断することが重要です。
従業員に対して事前の弁明機会を提供し、公正な手続きを経ることで、裁判におけるリスクを軽減できます。
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企業側からみた懲戒解雇のメリット
懲戒解雇は、企業が重大な規律違反を犯した従業員に対して行う厳格な処分です。
企業にとっては組織の秩序を維持し、問題行動を防ぐ手段となります。
懲戒解雇の3つのメリットを解説します。
問題行動を起こした従業員との雇用関係を終了できる
企業にとって、職場の秩序を乱す従業員との雇用関係を維持することは大きなリスクです。
不正行為やハラスメント行為を放置すると、企業の信用や職場環境に悪影響を与えます。
懲戒解雇を適用することで、問題を引き起こした従業員を速やかに排除し、健全な労働環境を確保することが可能になります。
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他の社員へ注意喚起ができる
懲戒解雇は、他の社員に対する警鐘の役割も果たします。
企業が重大な違反行為に対して厳正な措置を取ることで、従業員は規律を意識し、問題行動の予防につながります。
特に企業のコンプライアンスを遵守する上で、懲戒解雇の事例を共有することは重要です。
これにより、職場全体の意識向上を図ることができます。
解雇予告手当を支払わなくてよい場合がある
通常、企業が従業員を解雇する際には、解雇予告手当の支払いが義務付けられています。
しかし、懲戒解雇の場合、就業規則に則り適切な手続きを踏んでいる場合は、この支払い義務が免除されるケースもあります。
企業にとっては、金銭的負担を軽減できるというメリットがあり、特に経営状況が厳しい場合には重要な要素となります。
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企業側からみた懲戒解雇のデメリット
懲戒解雇は企業の秩序を維持するための重要な処分ですが、慎重な判断を求められます。
不適切な対応をすると、法的トラブルに発展し、企業にとって大きな負担となる可能性があります。
ここでは、懲戒解雇に伴う主なデメリットについて解説します。
懲戒解雇が最終的に無効になるリスクがある
懲戒解雇は、その正当性が問われるため、適用を誤ると無効になるリスクがあります。
特に、解雇の合理性や社会的相当性が欠ける場合や、就業規則に明確な根拠がない場合には、裁判で無効と判断される可能性が高くなります。
企業が解雇を実施した後に無効とされた場合、従業員は職場復帰する権利を持つことになり、企業の信用や業務運営にも影響を与えます。
そのため、懲戒解雇を実施する際には、綿密な証拠収集と慎重な判断が求められます。
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裁判になった場合の費用や労力の問題
従業員が懲戒解雇の無効を主張して裁判を起こした場合、企業側は弁護士費用や訴訟対応のための時間・労力を負担しなければなりません。
特に、労働問題に関する裁判は長期化することが多く、企業の業務負担が増えることになります。
裁判での対応には多くの証拠を準備しなければならず、関係者への聴取や書類作成など、通常業務に加えて負担が増すため、慎重な対応が必要です。
敗訴した時の負担の大きさ
裁判で懲戒解雇が不当と判断され、企業が敗訴した場合には、従業員の復職や損害賠償の支払いを命じられることがあります。
また、企業の評判が悪化し、他の従業員や取引先に対する信用にも影響を与えかねません。
企業の対応が不適切だったと認識されると、従業員との関係悪化や社内の士気低下にもつながるため、解雇に踏み切る前に慎重な判断が必要です。
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懲戒解雇手続きの流れ
懲戒解雇は、企業が従業員の重大な違反行為に対して行う厳しい処分であり、慎重な手続きを踏むことが求められます。
不適切な処分は法的リスクを伴うため、適切なプロセスを順守することが重要です。
ここでは、懲戒解雇の一般的な手続きの流れについて説明します。
問題行為の調査
懲戒解雇を検討する前に、従業員の問題行為について詳細な調査を実施する必要があります。
この段階では、以下のような情報を収集します。
- 違反行為の証拠(メール、監視映像、報告書など)
- 関係者への聞き取り調査(同僚や関係者へのヒアリング)
- 業務への影響の評価(企業の信用や業務遂行に与える影響)
問題行為が単なる誤解や軽微なミスではなく、懲戒解雇の対象となるほどの重大な違反であるかを明確にすることが求められます。
懲戒解雇事由に該当するか検討
調査結果をもとに、企業の就業規則や関連法規に照らし、懲戒解雇が適用可能か慎重に検討します。
一般的に、懲戒解雇が認められる理由には以下のようなものがあります。
- 横領・窃盗などの不正行為
- セクシュアルハラスメントやパワーハラスメント
- 企業機密の漏洩や重大な契約違反
- 無断欠勤や職務怠慢が極端に悪質な場合
この段階では、過去の事例や判例を参考にしながら、懲戒解雇が正当化されるかどうかを慎重に判断することが重要です。
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弁明の機会の付与
懲戒解雇を決定する前に、従業員に弁明の機会を与えることが法律上求められます。
企業は、従業員に対して正式な通知を行い、以下の内容について説明を求めます。
- 問題行為の具体的な内容
- 企業の就業規則に基づく懲戒処分の方針
- 従業員側の弁明や反論の機会の提供
このプロセスを適切に行うことで、後の法的トラブルを避けることができるとともに、公平な判断を下すことが可能になります。
懲戒解雇通知書の作成
弁明の結果を踏まえ、懲戒解雇の決定が確定した場合、企業は正式な通知書を作成します。
懲戒解雇通知書には以下の要素を記載します。
- 解雇の理由と具体的な事実関係
- 企業の就業規則に基づく処分の根拠
- 退職に伴う手続きの詳細
- 再就職支援や法律相談の案内(必要に応じて)
通知書は書面で発行し、従業員に確実に伝達することが求められます。
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懲戒解雇の通知
通知書が完成したら、正式に従業員へ懲戒解雇を通知します。
通知の方法は、面談による直接通知や郵送による通知などがあり、企業の方針によって異なります。
企業は、解雇の理由や手続きについて十分な説明を行うことで、誤解やトラブルを防ぐことができます。
退職に伴う事務処理
懲戒解雇が正式に成立した後は、従業員の退職に伴う事務処理を進めます。
主な手続きとして以下のものがあります。
社会保険や雇用保険の手続き
給与の未払い分の精算
業務用の備品や機密情報の返却確認
最終的な書類の発行(離職証明書など)
また、企業の信用を守るため、社内や取引先への適切な説明を行うことも重要です。
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まとめ
懲戒解雇は、企業が重大な規律違反をした従業員に対して行う厳格な処分です。
しかし、解雇権の濫用は許されず、合理性や社会的相当性が求められます。
企業側には問題社員を排除できるメリットがある一方で、裁判のリスクや経済的負担などのデメリットもあります。
懲戒解雇を適用する際には、慎重な手続きを経て公正な判断を行うことが重要です。
法的な問題を回避するためにも、証拠収集や規則の明確化を徹底しましょう。
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