IPO準備にはなぜ反社チェック(コンプライアンスチェック)が必要なのか?上場基準の反社会的勢力排除の体制づくりについて解説
IPO準備企業にとって落とし穴になりかねないのが「反社チェック」です。
近年は暴力団排除条例などで暴力団構成員は減少傾向にありますが、その分だけ目立たないようにうまく社会に溶け込んでいます。
例えば、まったく関わりがないと思われるような企業も、裏では反社会的勢力と密接な関係だったり、社員の中に紛れていたりもします。
そうした企業と取引などがあると、上場審査の際に引っかかって、それまでの準備が水の泡になってしまうことがあります。
そのため、IPO準備企業は、必ず反社チェックを行わなければなりません。
今回はその方法やポイントなどを紹介いたします。
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IPO準備に必要な反社チェック(コンプライアンスチェック)とは
そもそも「反社チェック」「コンプライアンスチェック」とは、取引先、社員、株主などに反社会的勢力との関係が疑われる人物や組織がいないかを取引前にチェックすることをいいます。
具体的なチェック方法は企業へ託されており、「どうやって調査すればいいのか」模索している企業も少なくありません。
IPOする上では反社会的勢力が関わっていないかが非常に重要となってきます。
IPO準備企業における反社チェック・コンプライアンスチェックについて解説します。
なぜIPO準備企業に反社チェックが必要なのか?
政府の定義によれば、反社会的勢力とは「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」とされています。
反社会的勢力に含まれるのは以下の通りです。
- 暴力団
- 暴力団員
- 暴力団準構成員
- 暴力団関係企業
- 総会屋
- 社会運動標榜ゴロ
- 特殊知能暴力集団
- 半グレ集団
企業がこうした団体や個人と取引などを行うと資金源にもなりかねません。
そのため法務省は、反社会的勢力を排除するためには、暴力団の資金源に打撃を与えることが不可欠としています。
ただ、2019年には政府として反社会的勢力の定義について「形態が多様であり、時々の社会情勢に応じて変化しうるから、あらかじめ限定的、統一的に定義することは困難」としています。
参考:参議院「参議院議員熊谷裕人君提出反社会的勢力の定義に関する質問に対する答弁書」
こうした政府や社会の動きに伴い、上場会社にも反社会的勢力との断絶が求められているのです。
そこで、上場申請時には「反社会的勢力との関係が無いことを示す確認書」を提出することが義務づけられています。
「反社会的勢力との関係が無いことを示す確認書」には、次のような項目のチェックを記載しなくてはなりません。
- 子会社を含む役員などの経歴:これは役員などの「氏名」「生年月日」を記入をしたうえで、直近5年間で仕事としてかかわったすべての会社・団体の名称や本店所在地を明記しなくてはなりません。
- 上場申請日における株主上位50名の身分証明:法人株主の場合は「名称」「本店所在地」、個人株主の場合、「氏名」「生年月日」「住所」、投資ファンドの場合は「所在地」「運営者」などを記載します。
- 仕入先及び販売先:申請の直前事業年度の連結ベースで上位10位の取引先を記載します。
個人なら「氏名」「生年月日」「住所」、法人なら「名称」「本店所在地」などの記載が必要です。
このような記載が必要なのは、IPO準備企業が反社チェックをしたかどうかを確認する意図があります。
また、東京証券取引所(東証)は独自の調査によって、これらのリストに挙げられた企業や個人が反社会的勢力とのつながりがないかチェックが行われます。
これらのチェックは受付前の事前確認の段階で、主幹事証券会社などによっても実施されます。
そのためIPO準備段階で反社チェックを入念に行っておくことが欠かせないのです。
関連記事:密接交際者の基準とリスク 反社会的勢力の関係者にならないために知っておくべきこと
IPO準備時に反社チェックについて決定すること
東証への報告事項には、主に上場申請会社グループ、役員、役員に準ずる者、主な株主、主な取引先が、反社会的勢力とは一切関係がないことを表明しなくてはなりません。
つまり、自社から子会社、外部役員など会社の経営にかかわる人物の経歴をすべて洗い出す必要があるのです。
そのためにも、まず必要となるのが企業としての「反社会的勢力に対する基本方針」です。
たとえば、次のような基本方針を定めます。
- 組織としての対応
反社会的勢力に対しては、行動規範・社内規定等に明文の根拠を設け、経営トップ以下、組織全体として対応します。
また、反社会的勢力に対応する従業員の安全を確保します。
- 外部専門機関との連携
平素から、警察、暴力追放運動推進センター、弁護士等の外部の専門機関と緊密な連携関係を構築することに努めます。
- 取引を含めた一切の関係遮断
反社会的勢力に対しては、取引関係を含めて、一切の関係を遮断します。
- 有事における民事と刑事の法的対応
反社会的勢力による不当要求を拒絶し、必要に応じて民事および刑事の両面から法的対応を行います。
- 裏取引や資金提供の禁止
反社会的勢力との裏取引は絶対に行いません。
反社会的勢力への資金提供は絶対に行いません。
この基本方針の土台となるのが、反社会的勢力との関係遮断に関する社内規定の整備です。
その際、参考になるのは日本監査役協会が公表している「反社会的勢力との関係遮断体制のチェックリスト」です。
その要点をまとめてみました。
- 代表取締役や監査役は、反社会的勢力による被害を防止するための政府指針や各都道府県が定める暴力団排除条例の内容を認識しているか
- 政府方針や暴力団排除条例を内部統制に組み込んでいるか
- 経営陣が反社会的勢力との関係遮断を明言しているか
- 反社会的勢力に対する倫理規定や行動規範などが社内規則に盛り込まれているか
- 反社会的勢力との取引や不当な要求が発生した場合に、対応する部署を定めてまた社内に周知できているか
- 反社会的勢力の対応に備えて警察や弁護士と連携が取れているか
- 社員がかかわりを持たないように方針が行き届いているか
- 対応マニュアルが策定されているか
- 仮に反社会的勢力との癒着などが起きないように適切な人事が行われているか
- 反社会的勢力との取引などが生じた場合に対応策が事前に用意されているか
- 反社会的勢力の不当要求に民事と刑事で法的な対応ができているか
これらの項目を先述した1例の基本方針は対応している部分が少なくありません。
基本方針と社内規則を設ける際には、日本監査役協会の資料を参考にするといいでしょう。
参考:日本監査役協会
また、上記からわかるように、まずは自治体などによる暴力団排除条例の内容を担当弁護士などと吟味する必要があります。
そして、外部業者などと契約を結ぶ際の契約書に暴力団排除条項を盛り込むことが必要です。
関連記事:IPO準備企業にはなぜ監査法人が必要?必要な理由と選び方について解
IPO準備企業が整備すべき反社チェック体制構築の仕方
指針や方針を定めただけで終わりではありません。
会社として反社会的勢力とどう向き合うか下記のような具体的な対策が必要です。
- 暴力団排除条項の契約書への導入と運用
- 取引先、社員、株主への事前の反社チェック・コンプライアンスチェック
- 既存顧客や、社員、株主への定期的な反社チェック・コンプライアンスチェック
1つずつ解説していきます。
暴力団排除条項の契約書への導入と運用
暴力団排除条項は予防的効果と解約事由の補完に役立ちます。
もし、新規取引先が反社会的勢力と関わりがあった場合、暴力団排除条項の取り消しなど求めてくることがあります。
また、もし契約締結時に虚偽の表明をしたことによる契約解除の可能性を確保することにもつながります。
取引先、社員、株主への事前の反社チェック・コンプライアンスチェック
契約締結や内定前に反社チェックを行うことが大切です。
契約前であれば、契約自由の原則を元に契約を断ることも自由に行うことができます。
IPO準備企業においては反社会的勢力を排除する体制構築が求められています。
事前に反社チェックを行う業務フローを構築し、運用していくことが大事です。
既存顧客や、社員、株主への定期的な反社チェック・コンプライアンスチェック
取引前や内定前に反社チェックを行い、反社会的勢力との関わりがないことを確認していても、契約後に反社が入り込む恐れがあります。
それにいち早く気づくためにも定期的な反社チェックを行う必要があります。
年に1回など、企業ごとのリスクに応じたタイミングで反社チェックを行う業務フローを構築することが大事です。
参考:反社の見落としゼロへ!既存顧客への定期的な反社チェックが必要な3つの理由
IPO準備に必要な反社チェックの具体的なやり方
指針や方針を定めても、誰が反社とかかわりがあるのかどうかを見極めることはできません。
まずはそのつながりを徹底的にチェックすることが大切です。
各金融機関や東証などは、独自に反社会的勢力をデータベース化してチェックシステムを構築しています。
しかし、IPO準備企業にこうしたデータベースを自社でそろえることは、コスト的にもほぼ不可能です。
そこで企業として取り組めることが新聞記事やネット検索などの公知情報を調べることです。
上場企業をはじめ、多くの企業では異なるデータソースを検索することで調査が補完されるという考えのもと、2つ以上の手段で反社チェックが実施されることが多いです。
もともと反社チェックのための情報源ではないので、検索後、取引してもよいかの判断は公知情報をもとに行います。
特にインターネット上の情報や新聞記事データは、記事によって住所・事件当時の年齢の記載がなく、取引先と同一であるか判断がつかない場合があります。
その場合は、登記情報や本人確認ができる公的な書類の提供を受けたうえで、疑わしきネガティブな公知情報との関与がないか、確認をするケースもあります。
また、反社チェックは「どんな条件で」「いつチェックし」「結果どうだったのか」のエビデンス(証拠)を残すことが重要です。
チェックした際は、検索した際の画面を保管しておきましょう。
参考:反社チェック・コンプライアンスチェックの具体的な方法とは?
上場申請時に証券取引所から確認されること
上場申請時には多岐に渡るチェック項目の中でも、反社会的勢力との関係性の確認はより力をいれて確認されます。
もし、反社会的勢力との関わりがある企業を上場させてしまった場合、証券取引所の信用問題になりかねません。
上場申請企業と反社会的勢力の関係性
東証では、上場審査のガイドラインに、「その他公益又は投資者保護の観点から東証が必要と認める事項」を設けています。
その中には「反社会的勢力による経営活動への関与を防止するための社内体制を整備し、当該関与の防止に努めていること及びその実態が公益又は投資者保護の観点から適当と認められること」とされています。
ここでいう関与は何も深い関係だけではありません。
経営陣に反社会的勢力などがいる場合は言語道断ですが、関係者が資金提供や反社会的勢力の運営に協力している場合や申請会社の経営活動に関与している場合が含まれています。
具体的な例としては次のようなことが「関与」に当てはまります。
- 取引先
- 採用候補者
- 増資や株主譲渡の候補者
- 資金や資産の借り入れ、貸し付けを行う際の賃貸借人
- 新規に加入しようとする団体
- 買掛が生じる購買先
- 接待や寄付の相手
- 継続的な購入をする際の購買先
ちなみに、反社会的勢力が発行しているような雑誌などの媒体を購入することも関与にあたります。
反社会的勢力に一切の資金を提供していないことを証明しなくてはならないと考えておきましょう。
上場企業に対する反社チェックは必要か?
上場企業に対する反社チェックは、非上場企業への反社チェック同様、基本的には行ったほうがリスクを避けることに繋がります。
なぜならば、厳しい上場審査を通過した企業であっても、その後も継続して反社排除できている保証はどこにもなく、いきなり反社との関係が報道されるといった可能性もあり、自社にも影響が出てくる恐れがあります。
ただ、一般的には上場企業への反社チェックは省略されていることも多く、自社のリスク管理のレベルをどこまで高めておくかにより選択していく必要があります。
参考:反社会的勢力とはなにか?定義や調べ方など具体的な対策を解説
IPO準備時に反社と同じくらい排除しなければならない「反市場勢力」とは
反社会的勢力のなかでも、暴力団よりもわかりにくいのが「反市場勢力」と呼ばれる勢力です。
彼らは社会に溶け込んでいるケースが多いからです。
しかし、裏では株式市場で不正な取引を行い、違法な手段で利益を得たりしています。
反市場勢力の典型的な活動として株価の操作にあたるインサイダー取引があります。
インサイダー取引をする反市場勢力は「仕手筋」とも呼ばれ、金融ブローカーなどを組織的に行っています。
公知情報を活用した反社チェックでは、反市場勢力を炙り出せない可能性もありますが、しっかりとチェックの体制を整えているということが上場審査では大事になります。
参考:上場企業・IPO準備企業の陰に潜む反市場勢力とは?基本と用語について解説
まとめ
今回はIPO準備企業における反社チェックについて解説しました。
締め付けが強まるたびに、反社会的勢力はあの手この手で生き延びてきました。
なかには法的な知識に長けている人もいたりして、狡猾な手口で企業に忍び寄ります。
暴力行為や脅迫などは警察がすぐに動けますが、反市場勢力のように陰に隠れてこっそりと企業から資金を得ている人々を見抜くのは非常に困難です。
そのためにもIPOを目指すのであれば、早い段階で反社チェックを行って、あらかじめ企業としての体裁を整えなくておくべきではないでしょうか。
関連記事:IPO準備企業における内部統制への対応方法とは 体制構築のステップも解説
関連記事:反社会的勢力に対応するためのガイドライン 反社チェックの基準とは?