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IPO準備企業が上場を目指す上で知っておくべきインサイダー取引規制とは

IPO準備企業は上場した後の変化を事前に知っておく必要があります。
上場後は投資家たちの公正な取引を担保しなければなりません。

投資家たちを守るインサイダー取引に関する規制については役員だけでなく、一般社員、アルバイトやパートにまで関わってくる重要な事柄です。
事前に体制を構築しておくことで、上場後の不安を取り除くことにつながります。

今回はIPO準備企業が上場を目指す上で知っておくべきインサイダー取引規制について解説していきます。

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目次[非表示]

  1. 1.IPO準備中に知っておくべきインサイダー取引とは
    1. 1.1.インサイダー取引と認められる要件とは
      1. 1.1.1.会社関係者とは
      2. 1.1.2.内部情報とは
      3. 1.1.3.公表とは
      4. 1.1.4.株式の売買
    2. 1.2.インサイダー規制の主旨は
    3. 1.3.インサイダー取引が与える影響とは
      1. 1.3.1.個人への影響
      2. 1.3.2.企業への影響
  2. 2.IPO準備企業が知っておくべきインサイダー取引の監視とは
  3. 3.IPO準備企業が取り組むべきインサイダー取引を未然防ぐ体制とは
    1. 3.1.インサイダー規制研修
  4. 4.インサイダー取引に関わる反市場勢力を排除するには反社チェック(コンプライアンスチェック)が必要
  5. 5.まとめ

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IPO準備中に知っておくべきインサイダー取引とは

IPO準備中に知っておくべきインサイダー取引とは

インサイダー取引とは、上場企業の内部関係者が会社の重要な内部情報を知り、それをもとに株式の売買を行うことを指します。

投資家たちは、会社の事業や経営状況をもとにして投資をしています。
そのため、公表前の誰も知らない情報を得て株式の売買を行うことは不正競争に当たるので、金融商品取引法166条によって禁止されています。

参考:金融商品取引法166条

ただ、何がインサイダー取引に当たるのかは条文だけでは不透明でわかりづらいために、法律をよく知らない社員が勝手に起こしてしまい、大きな問題になることもあります。

インサイダー取引と認められる要件とは

インサイダー取引と認められるのには、下記のような要件があります。

  • 会社関係者
  • 内部情報
  • 公表
  • 株式の売買

インサイダー取引と認められる範囲は非常に広く、対象者も非常に広いです。
法的知識やコーポレートガバナンスについて、知識が不足していると、思わぬ情報の授受がインサイダー取引に認定される可能性があります。

インサイダー取引の要件について1つずつ具体的に解説していきます。

会社関係者とは

インサイダー取引において、会社関係者と見なされるのは「会社の中で内部情報を知り得る立場にある者」を指します。

これには取締役などの会社役員だけでなく、一般社員も含まれるほか、内部情報を知った関係者も含まれます。
役職は関係なく、アルバイトやパートでも同様です。

内部情報を知るのは、社員だけではありません。会計帳簿請求権などを持つ株主や許認可の権限を有する公務員、公認会計士や顧問弁護士といった業務委託関係者、さらには会社を辞めて1年以内の元従業員も含まれます。

内部情報とは

インサイダー取引にあたる内部情報は、「重要事実」と呼ばれます。
重要事実には会社の経営や業務、財務状況などの情報を指します。

重要事実に含まれる非常に多岐にわたります。
資本金の減少や株式の分割といった有価証券の取引に関することはもちろん、会社の分割や合併、新製品や新技術の情報などなどです。

言ってしまえば、上場会社における企業活動のほぼすべてが当てはまるといっても過言ではありません。
上場企業は、すべての活動が株価に影響を与えています。

公表とは

企業による情報の公表も次のように定義されています。

  • 2つ以上の報道機関(新聞社、通信社、放送事業者など)に情報を公開して12時間が経過していること。
  • 金融商品取引所等に対して重要事実を通知し、ホームページなどで公開していること
  • 企業が提出した書類(有価証券届出書、これらの訂正届出書、有価証券報告書、これらの訂正報告書など)に重要事実にかかわる事項が記載されていること

株式の売買

株式の売買に含まれるのは株券だけではありません。
社債券や優先出資証券、新株予約権証券、カバードワラント、他社株転換条項付社債券なども含まれています。

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インサイダー規制の主旨は

インサイダー取引を禁止されている最大の理由は、市場の信頼を担保することにあります。

重要な情報を知っている立場の関係者は、その情報が公開される前に有利な取引ができることになります。
特定の者が大幅な利益を得ることになり、一般投資家たちによる自由な取引が阻害されてしまいます。

このようなインサイダー取引が横行すると、投資家たちはその証券市場に参加したがらなくなります。
株式市場の存続が危うくなり、上場企業が資金を調達できなくなると、経済が大きく停滞します。

スーパーで例えてみましょう。
不定期で行われるはずのタイムセールの情報をあらかじめ知っているパートが、その情報を個人的に知り合いへ伝えたとします。
その知り合いは誰よりも早く、タイムセールに行くことができ、その情報を知らない一般客は欲しい総菜を安く手に入れる機会を失います。
一般客が「ズルい」と考えるのは当然のことで、こんなことが毎日のように続いたら、そのスーパーへの信頼感が損なわれ、客足が遠のくことでしょう。

そもそも株式市場は、企業が社会的な信用をベースに国内外から資金を調達する仕組みです。
企業の信頼度だけでなく、市場に安心が担保されているからこそ、さまざまな投資家が株式の売買を自由に行われるのです。

インサイダー取引が与える影響とは

では、実際にインサイダー取引を行った際、どのようなリスクがあるのでしょうか。
その影響は「個人」と「企業」の双方に及びます。

個人への影響

個人でインサイダー取引を行った場合、刑事罰が科される可能性があります。
金融商品取引法第197条の2によると、5年以下の懲役か500万円以下の罰金、又はその両方が規定されています。
そう言われてもどのぐらい重い罪にあたるのか想像できないかもしれません。

実は、刑法211条の業務上過失致死(5年以下の懲役もしくは禁錮、100万円以下の罰金)と同等か、それ以上の罰則だと言えるでしょう。
仮に刑事罰が科されなかったとしても、行政罰によって課徴金の支払いが生じるのは間違いありません。

参考:金融商品取引法第197条の2

課徴金とは、公正取引委員会などから不正に得た利益を納付するよう命じられることです。
インサイダー取引においては、それを行った個人に対して、不正に得た利益をはく奪する処分だとされています。

金融商品取引法第197条などによると、自己株取得という重要事実を知っていて、株式の売買を行った場合、その公表後2週間における最も高い価額から実際に買い付けた価額を差し引いた金額が課徴金にあたります。

つまり、公表後2週間のうち、もっとも利益が生じたとした仮定して課徴金の支払い額が決められます。
そのため、ほとんどのケースで課徴金は実際に得た利益よりも高くなります。
例えば、インサイダー取引を行ったけど利益を得られなかったとしても、課徴金が生じる可能性もあるのです。

刑事罰や行政罰だけではなく、インサイダー取引を行った人は会社を解雇されたり、役職を辞任する社会的制裁を受けます。
上場会社などの企業には、就業規則が厳密に定められており、たいていは刑事罰や行政罰を受けた場合、懲戒処分などの規定が設けられています。

刑事でも非常に重い罪にあたるので、会社としても重い罰則を設けているのです。
また、市場に対する信用を取り戻すためにも、厳しい処分を与えたことをアピールしなければなりません。

ちなみに、2018年度に課徴金が課せられた件数は33件、課徴金額は4億1210万円に及びます。
公正取引委員会によれば、そのほとんどのケースで会社を解雇・役職の辞任に追い込まれていることがわかります。

参考:証券取引等監視委員会「2018年度証券取引等監視委員会の活動状況」

インサイダー取引は刑事、行政、社会的に大きなリスクが個人にのしかかってくるといえるでしょう。

企業への影響

インサイダー取引のほとんどが個人によるものですが、なかには企業ぐるみで行われることがあります。
その場合、法人も刑事罰や課徴金の対象となります。
当然ながら法人のほうが個人の場合よりも罰則金などは大きくなります。

金融商品取引法によると、刑事罰では罰金は5億円以下と規定。
課徴金の算定は個人の場合と変わりはありませんが、売買した金額が個人よりも大きいケースがほとんどですので、当然ながら課徴金も大きくなる可能性が高いと考えられます。

何より上場会社にとって致命的なダメージになりかねないのがレピュテーションリスクです。
レピュテーションリスクとは企業に関するネガティブな評価が広まり、信用やブランドが低下して損失を負うことです。

インサイダー取引が告発されたり、課徴金が課された場合、証券取引等監視委員会や金融庁から企業名を公表され、大なり小なり記者会見が行われます。
これは組織ぐるみでなくても、会社の役員や社員でも同様です。

事実が公表された企業は、コンプライアンスの点で投資家からの厳しい目に晒されます。
一般的に株の売りが多くなり、株価が下がります。迅速な対応が求められるので、再発防止に向けた対策を講じ、場合によっては企業自らで公表するなどの対応が必要となります。

また、従業員によるインサイダー取引を防止できなかったことを理由に、役員責任を問う訴訟が起きたケースもあります。
インサイダー取引が明るみに出ると、企業に対するダメージは計り知れません。
経営者にかかる責任は極めて重いといえるでしょう。

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IPO準備企業が知っておくべきインサイダー取引の監視とは

IPO準備企業が知っておくべきインサイダー取引の監視とは

金融商品取引所の自主規制業務を専門に行う機関として、日本取引所自主規制法人が設けられています。
この法人では、東京証券取引所の現物市場や大阪取引所で行われるデリバティブ※市場などで、インサイダー取引が行われていないか常にチェックしています。

※デリバティブ:通貨、株式、債券などの原資産から派生した取引の総称。

そのチェック範囲は広く、株式の発行、倒産、合併及び決算に関する情報から、どのような重要事実が公表されているのかについて、すべての銘柄で分析しています。
この法人によるチェックで、インサイダー取引と疑われるケースは証券取引等監視委員会に報告されます。

こうした一連の流れは「売買審査」と呼ばれます。
日本取引所自主規制法人は重要事実が公表された銘柄を抽出して、投資した人の属性や売買状況など、事細かに分析を行っています。

実際に売買の動向を監視しているので、個人が絶対にバレないと思っていても、かなりの精度で絞り込まれているのです。

IPO準備企業が取り組むべきインサイダー取引を未然防ぐ体制とは

IPO準備企業が取り組むべきインサイダー取引を未然防ぐ体制とは

インサイダー取引を未然に防止するためには、企業による体制づくりが欠かせません。
では、具体的にどのようなことに取り組まなければならないのでしょうか。

日本証券取引所によると、主に以下の3つがポイントとして挙げられています。

  1. 投資判断に重大な影響を与える会社情報の適時開示に積極的に対応すること(適時適切な開示)
  2. 未公表の会社情報が他に漏れたり不正に利用されたりすることのないよう社内体制を整備すること(適切な情報の管理等)
  3. インサイダー取引規制の意義や内容について役職員等に周知徹底を図ること(規制の正しい理解)

簡単にまとめると、会社全体でインサイダー取引の適切な知識を身につけて、会社の情報をしっかり管理、隠すことなく積極的に開示することが求められているのです。

参考:日本証券取引所「インサイダー取引の未然防止」

インサイダー規制研修

もっとも重要なのは役員なども含めた社員教育です。
日本取引所自主規制法人はより企業や個人のコンプライアンス支援を目的に「COMLEC(コムレック)」を設立しました。

投資家を含めたすべての市場利用者に対し、株式売買などに関する法令の知識を得られるようなサービスを展開しています。
例えば、コンプライアンス関連セミナーの開催、社内研修等への講師の派遣、eラーニング研修サービスの提供などです。

インサイダー取引が公表された企業の事例を見ると、多くのケースで事後に「COMLEC(コムレック)」の研修を行っています。
なかでも、テレワークが進んだ今、よく利用されているのがeラーニングです。

eラーニングサービスは、役員向け、新入社員向け、管理部門向けなどの教材を提供。
各企業で活用できるようになっています。

参考:COMLEC(コムレック)

インサイダー取引に関わる反市場勢力を排除するには反社チェック(コンプライアンスチェック)が必要

インサイダー取引に関わる反市場勢力を排除するには反社チェックが必要

インサイダー取引を未然に防止する取り組みは肝心ですが、IPO準備会社においては、あらかじめリスクを取り除くことが大切になります。

その1つが「反市場勢力」の排除です。
反市場勢力とは、株式市場などにおいてインサイダー取引など違法な手段で利益を得る勢力のことです。

特に注意しなければならないのが「仕手筋」と呼ばれる勢力です。
仕手筋とは、公開市場で利益を得ることを目的に、大量の短期売買を行う投資家を指します。
多くの資金が必要になるため、多くは複数人で活動しています。

その方法は、特定の銘柄に対し様々な手法を駆使して「仕手相場」を作り、利益をあげるというものです。
安値の株を大量に買い続けて株価を急激につり上げたり、株を大量に売り株価を叩き落とそうとしたりします。

反市場勢力は、金融庁によってリストアップされており、ブラックリストがつくられています。
リストアップされた企業や個人は、上場企業の取引にかかわることができません。

ただ、金融庁のリストをIPO準備会社が単独で入手するのは困難を極めます。
また、自主的な反社チェック(コンプライアンスチェック)では、どの企業や個人が反市場勢力なのか見極めることも難しいものです

ただIPO審査においては全ての排除ができないとしても、できるだけのリスクを排除するという体制を整えることが重要となりますので、自社の事業や現状に沿った反社チェック体制を構築することが大事です。

参考:上場企業・IPO準備企業の陰に潜む反市場勢力とは? 基本と用語について解説

  上場企業の陰に潜む反市場勢力とは? 基本と用語について解説 「反社会的勢力」の排除はどの企業でも取り組まれていることですが、「反市場勢力」の排除は進んでいるでしょうか? 企業の資金調達やM&Aを担当する財務や経営企画などの方々はよく耳にするようになってきたことでしょう。 元々金融業界で使われていた用語で定義を明文化されているわけではありませんが、企業リスクを排除するためには知っておくことが大切です。 今回は「反市場勢力」とは何か、基本から関連する用語について解説します。 RISK EYES


まとめ

ここまでIPO準備企業が上場を目指す上で知っておくべきインサイダー取引規制について解説してきました。
1度でもインサイダー取引が発覚してしまうと、上場後の株価への影響などで会社が傾きかねません。

会社に関わる全ての人への教育を行うことや事前に防ぐための体制構築をIPO準備中から整えていくことが大事です。

関連記事:IPO準備中にも影響する内部統制報告書とは J-SOXへの対応について解説
関連記事:IPO準備にはなぜ反社チェック(コンプライアンスチェック)が必要なのか? 上場基準の反社会的勢力排除の体制づくりについて解説

  IPO準備中にも影響する内部統制報告書とは J-SOXへの対応について解説 内部統制報告書は、上場後に作成する報告書ですが、IPO準備段階から作成に向けての準備が必要なものです。企業が内部統制を整備するのは時間のかかる作業で、時間をかけて取り組まなければならない問題と言えます。 今回は、内部統制報告書とはなにか、IPO準備企業が内部統制報告書に対応するにはどのようなスケジュールで進めるべきかなどを解説していきます。 RISK EYES
  IPO準備にはなぜ反社チェック(コンプライアンスチェック)が必要なのか? 反社会的勢力排除の体制づくりについて解説 IPO準備企業にとって落とし穴になりかねないのが「反社チェック」です。近年は暴力団排除条例などで暴力団構成員は減少傾向にありますが、その分だけ目立たないようにうまく社会に溶け込んでいます。 例えば、まったく関わりがないと思われるような企業も、裏では反社会的勢力と密接な関係だったり、社員の中に紛れていたりもします。 そうした企業と取引などがあると、上場審査の際に引っかかって、それまでの準備が水の泡になってしまうことがあります。 そのため、IPO準備企業は、必ず反社チェックを行わなければなりません。今回はその方法やポイントなどを紹介いたします。 RISK EYES



佐々木 雄輝
佐々木 雄輝
2022年にソーシャルワイヤー株式会社に入社。 反社チェックサービス『RISK EYES』のマーケティング施策の企画立案を担当。
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