
試用期間とは?目的・労働条件・メリットデメリット・解雇の注意点まで徹底解説
採用後すぐに本採用とはならず、まず「試用期間」が設けられるケースが多くあります。
この期間は、企業と労働者が互いの適性を見極める重要なステップです。
この記事では、試用期間の目的や労働条件、メリット・デメリット、そして解雇に関する注意点までをわかりやすく解説します。
【参考】より深く知るための『オススメ』コラム
【実務担当者】取引リスク別反社チェック効率化の方法
目次[非表示]
- 1.試用期間とは?
- 1.1.試用期間の目的
- 1.2.試用期間の適用対象者
- 1.3.一般的な試用期間の長さ
- 1.4.研修期間との違い
- 2.試用期間中の労働条件や待遇
- 3.試用期間のメリット・デメリット
- 3.1.試用期間のメリット
- 3.1.1.採用ミスマッチの回避につながる
- 3.1.2.試用期間終了後の人材配置がしやすい
- 3.2.試用期間のデメリット
- 3.2.1.人材の適性や資質の見極めが難しい
- 3.2.2.本採用までの採用工数・コストが発生する
- 3.2.3.本採用辞退(退職)のリスクが発生する
- 3.2.4.能力不足を改善させるための伝え方(対応)が難しい
- 4.試用期間中の労働者の解雇について
- 5.まとめ
▶とりあえずダウンロード!【無料で反社チェックの効率化を学ぶ】
試用期間とは?
企業が新たに採用した従業員に対して、本採用前に一定期間設ける「試用期間」は、雇用契約の中でも重要なステップです。
これは単なる仮採用ではなく、労働契約が成立している状態であり、労働基準法などの法的保護も適用されます。
企業と従業員の双方が、業務内容や職場環境に適応できるかを見極めるための期間として活用されます。
試用期間の目的
試用期間の最大の目的は、採用ミスマッチの防止です。
面接や履歴書だけでは判断しきれない実務能力や職場での適応力、コミュニケーション能力などを、実際の業務を通じて確認することができます。
企業側は、業務遂行に必要なスキルや態度を評価し、従業員側も職場の雰囲気や業務内容が自分に合っているかを判断する機会となります。
関連記事:雇用契約解除が認められる正当な理由とは?不当解除のリスクと注意点を徹底解説
試用期間の適用対象者
試用期間は、正社員として新たに採用された人材に対して適用されるのが一般的です。
新卒採用・中途採用のいずれにも設けられることが多く、企業によっては契約社員やパートタイマーにも試用期間を設定する場合があります。
ただし、適用の有無や期間は雇用契約書や就業規則に明記されている必要があります。
一般的な試用期間の長さ
試用期間の長さは企業によって異なりますが、一般的には1〜3ヶ月程度が多く見られます。
業務の専門性が高い職種や、評価に時間がかかる場合には6ヶ月程度に設定されることもあります。
延長する場合には、合理的な理由と労働者の同意が必要です。
延長の際には、評価基準や延長期間を明確に伝えることが望まれます。
関連記事:採用後に必要な手続き一覧!入社前後・保険・税金まで徹底解説
研修期間との違い
研修期間は、業務に必要な知識やスキルを習得するための教育期間であり、評価よりも育成が目的です。
一方、試用期間は本採用の可否を判断する評価期間であり、業務遂行能力や職場適応力を見極めることが主な目的です。
両者は目的が異なるため、混同しないよう注意が必要です。
企業によっては、研修期間と試用期間を並行して設けるケースもありますが、それぞれの役割を明確に区別することが重要です。
関連記事:社内研修とは?目的・種類・進め方まで徹底解説【人材育成の基本】
試用期間中の労働条件や待遇
試用期間中であっても、労働者と企業の間には正式な雇用契約が成立しており、労働基準法をはじめとする各種法令が適用されます。
ここでは、試用期間中の労働条件や待遇について、具体的に見ていきましょう。
労働条件
試用期間中の労働条件は、基本的に本採用後と大きく変わらないのが原則です。
労働時間、休日、業務内容、勤務地などは、雇用契約書や就業規則に基づいて定められます。
ただし、企業によっては試用期間中に限り一部の業務に限定したり、勤務時間を短縮したりするケースもあります。
いずれにしても、労働条件の詳細は事前に明示され、労働者の同意を得る必要があります。
関連記事:労働基準法における休憩時間の原則や注意点とは?違反時の罰則についても解説
賃金や手当、賞与
試用期間中の賃金は、本採用後よりも低く設定されることがありますが、最低賃金法を下回ることはできません。
通勤手当や住宅手当などの諸手当については、企業の規定により支給の有無が異なります。
また、賞与については、試用期間中は支給対象外とする企業が多いですが、これも就業規則や雇用契約書に明記されているかが重要です。
待遇の差異がある場合は、あらかじめ明確に説明されるべきです。
残業や有給休暇
試用期間中でも、所定労働時間を超えて働いた場合には残業代が支払われる義務があります。
労働基準法により、残業には割増賃金が適用されます。
また、有給休暇については、雇用開始日から6ヶ月継続勤務し、かつ全労働日の8割以上出勤していれば、10日間の年次有給休暇が付与されます。
つまり、試用期間中の勤務日数も有給休暇の付与要件に含まれるため、勤怠管理が重要です。
関連記事:雇用契約と業務委託契約の違いと見分け方を徹底解説!業務委託のメリットも解説
社会保険の加入要件
試用期間中であっても、一定の条件を満たせば社会保険への加入が義務付けられます。
たとえば、週の所定労働時間が20時間以上で、月額賃金が8万8000円以上、かつ2ヶ月を超えて雇用される見込みがある場合、健康保険・厚生年金・雇用保険への加入が必要です。
企業が「試用期間中だから」として社会保険の加入を遅らせることは、原則として認められていません。
関連記事:雇用保険の加入条件とは?加入するメリット・デメリットや企業への罰則も解説
試用期間のメリット・デメリット
試用期間は、企業と労働者の双方にとって「見極め」の期間です。
採用後すぐに本採用とするのではなく、一定の期間を設けることで、業務への適応力や職場との相性を確認することができます。
この制度には多くの利点がある一方で、運用次第ではトラブルの原因にもなり得ます。
ここでは、試用期間のメリットとデメリットを具体的に解説します。
試用期間のメリット
試用期間を設けることで、企業は採用した人材の実務能力や職場適応力を評価でき、労働者も自分に合った職場かどうかを判断する機会を得られます。
ここでは、試用期間を設けるメリットを2つ紹介します。
採用ミスマッチの回避につながる
書類選考や面接だけでは、応募者の実際の働きぶりや職場との相性を完全に把握することは困難です。
試用期間を通じて、実際の業務に取り組んでもらうことで、企業はその人材が期待通りのパフォーマンスを発揮できるかを見極めることができます。
労働者側も、職場の雰囲気や業務内容が自分に合っているかを体感できるため、早期離職のリスクを減らすことが可能です。
関連記事:採用のミスマッチを防ぐリファレンスチェックとは?メリット・デメリットについて解説
試用期間終了後の人材配置がしやすい
試用期間中の評価をもとに、適材適所の配置がしやすくなるのも大きな利点です。
たとえば、営業職として採用した人材が、実際には企画や分析業務に強みを持っていると分かれば、試用期間終了後に部署異動を検討することができます。
これにより、本人の能力を最大限に活かし、組織全体の生産性向上にもつながります。
関連記事:人事制度とは?3本柱とその役割、制度構築のフローを解説
試用期間のデメリット
一方で、試用期間には注意すべき点も多く存在します。
ここでは試用期間のデメリットを4つ紹介します。
人材の適性や資質の見極めが難しい
試用期間は一般的に1〜3ヶ月程度と短く、限られた業務しか経験できないことも多いため、労働者の本質的な能力や性格を見極めるのが難しい場合があります。
特に、緊張や環境への慣れが必要な人材にとっては、短期間で実力を発揮することが難しく、正当な評価がされにくいという課題があります。
本採用までの採用工数・コストが発生する
試用期間中も、教育や評価のために人事や現場のリソースを割く必要があります。
OJTや面談、進捗確認などに時間と労力がかかり、企業にとってはコスト負担が増加します。
さらに、試用期間終了後に本採用を見送る場合は、再度採用活動を行う必要があり、二重のコストが発生する可能性もあります。
関連記事:採用コストの相場はどのくらい?中途・新卒採用の平均コストや計算方法、コスト削減のポイントを解説
本採用辞退(退職)のリスクが発生する
労働者が職場に合わないと感じた場合、試用期間中に退職を申し出るケースもあります。
これは企業にとって予期せぬ人材流出となり、業務の引き継ぎや再採用の手間が発生します。
特に、即戦力として期待していた人材が辞退する場合、業務への影響は大きくなります。
試用期間中のフォロー体制やコミュニケーションの質が、定着率に大きく関わってくるため、企業側の対応力が問われます。
能力不足を改善させるための伝え方(対応)が難しい
試用期間中に業務遂行能力が不足していると判断された場合、改善を促す必要がありますが、その伝え方には細心の注意が求められます。
厳しく指摘しすぎるとモチベーションが低下し、退職につながる可能性があります。
一方で、曖昧なフィードバックでは改善が見込めず、評価が不明確になるリスクもあります。
適切なタイミングで、具体的かつ建設的なフィードバックを行うことが重要です。
関連記事:採用基準を設ける重要性とメリットとは?3つの要素や設定のポイントを解説
試用期間中の労働者の解雇について
試用期間は、企業が新たに採用した労働者の適性や能力を見極めるための期間ですが、この期間中に「本採用を拒否する=解雇する」場合には、労働法上の厳しい制約が伴います。
安易な対応は不当解雇とされ、企業側が損害賠償を命じられるリスクもあるため、正しい知識と手続きが必要です。
本採用拒否の要件
試用期間中の本採用拒否は、法的には「解雇」と同じ扱いになります。
そのため、企業は「客観的に合理的な理由」と「社会通念上相当と認められる事情」が必要です。
たとえば、勤務態度の著しい不良、業務遂行能力の著しい不足、重大な経歴詐称などが該当します。
単なる主観的な印象や、曖昧な理由では認められず、裁判で不当解雇と判断される可能性があります。
関連記事:採用と内定の違いとは?内定通知の注意点や反社チェックについて解説
試用期間中および試用期間延長後の本採用拒否
試用期間中の本採用拒否は、期間の途中でも可能ですが、延長後に拒否する場合も同様に厳格な要件が求められます。
延長する際には、労働者の同意と合理的な理由が必要であり、延長後の評価も客観的な記録に基づいて行う必要があります。
延長の目的が曖昧だったり、評価基準が不明確な場合は、後々トラブルに発展するリスクがあります。
本採用拒否の手続き
本採用拒否を行う際には、事前に改善の機会を与えた上で、指導記録や評価資料を残しておくことが重要です。
そして、拒否の際には書面で通知し、理由を明示することが求められます。
労働者から求められた場合には「解雇理由証明書」を交付する義務もあります。
これらの手続きを怠ると、労働者から不当解雇として争われる可能性が高まります。
関連記事:解雇するための条件とは?主な解雇理由や解雇後の注意点についてわかりやすく解説
試用期間中は解雇予告手当の支払いが不要(雇用後14日以内のみ)
労働基準法では、雇用開始から14日以内であれば、解雇予告や解雇予告手当の支払いは不要とされています。
しかし、15日目以降に解雇する場合は、30日前の予告または30日分の解雇予告手当の支払いが必要です。
試用期間中だからといって、いつでも自由に解雇できるわけではない点に注意が必要です。
関連記事:労務トラブルとは?発生時の対応手順や注意点、未然に防ぐ対策を解説
まとめ
試用期間は、企業と労働者が互いに適性を見極める貴重な時間です。
労働条件や解雇のルールを正しく理解し、明確な評価基準とコミュニケーションを持つことが、円滑な雇用関係の構築につながります。
採用担当者は制度設計と運用に慎重を期し、労働者は職場との相性を見極める意識を持つことが重要です。
関連記事:労務管理の目的と主な業務とは?関連法律や注意すべきポイントを解説
関連記事:社内規程の種類と作り方、作成のポイントをわかりやすく解説












