
事業譲渡の注意点とは?法律・契約・リスク管理を徹底解説
事業譲渡は、企業の一部または特定事業を切り出して移転する、柔軟性の高い再編手法です。
柔軟性が高い一方で、契約・労務・許認可・コンプライアンスなど、見落とすと重大なトラブルにつながる論点も少なくありません。
特に総務・法務・人事などの実務担当者にとっては、適切なリスク管理と手続き理解が欠かせません。
この記事では、事業譲渡の注意点を法律・契約・デューデリジェンス(DD)を含む実務上の観点から体系的に解説します。
【参考】より深く知るための『オススメ』コラム
▼反社チェックツール「RISK EYES」の無料トライアルはこちら
目次[非表示]
- 1.事業譲渡とは?
- 1.1.事業譲渡の基本的な仕組み
- 1.2.株式譲渡・会社分割との違い
- 1.3.メリット・デメリット
- 2.事業譲渡の基本的な流れ
- 2.1.基本合意
- 2.2.デューデリジェンス(DD)
- 2.3.最終契約締結
- 2.4.クロージングと引き継ぎ
- 3.事業譲渡で必ず押さえるべき法律・契約上の注意点
- 3.1.譲渡対象の範囲の明確化
- 3.2.契約書でトラブルになりやすいポイント
- 3.3.許認可・ライセンスの扱いに関する注意点
- 4.人・モノ・情報の引き継ぎで注意すべき点
- 4.1.従業員の同意取得
- 4.2.取引先契約の再締結
- 4.3.知的財産・顧客データの承継
- 5.事業譲渡で見落とされがちなリスクとその対策
- 5.1.簿外債務
- 5.2.潜在訴訟リスク
- 5.3.コンプライアンス違反
- 5.4.反社会的勢力との関係
- 5.4.1.反社チェックを怠ることで起こり得るリスク
- 6.デューデリジェンス(DD)で確認すべきポイント
- 6.1.法務DD
- 6.2.財務DD
- 6.3.労務DD
- 6.4.コンプライアンスDD
- 7.事業譲渡における反社チェックの重要性
- 7.1.反社チェックが必要とされる理由
- 7.2.DDにおける反社リスク確認
- 7.3.買い手・売り手双方が行うべき確認事項
- 7.4.反社チェックツールを活用するメリット
- 7.4.1.効率化・網羅性・証跡管理の観点から
- 8.まとめ
事業譲渡とは?
事業譲渡とは、企業が営む特定の事業を第三者へ移転する取引で、資産・契約・人材などを個別に選んで承継させる点に特徴があります。
会社全体ではなく事業単位で切り出せるため、ノンコア事業の整理や特定部門の売却など、柔軟な再編が可能です。
一方で、契約や従業員との雇用関係が自動的に移転しないため、実務担当者による丁寧な調整が欠かせません。
事業譲渡の基本的な仕組み
事業譲渡は、売り手と買い手が締結する契約に基づき、事業を構成する要素を「選択して」移転する仕組みです。
移転対象は契約書で明確に定める必要があり、曖昧な記載は後の紛争につながります。
また、取引先契約や従業員の雇用契約は自動承継されず、再締結や本人同意が必要となるため、法務・総務・人事部門が連携して準備を進めることが重要です。
関連記事:企業法務の役割と重要性とは?主な仕事や関連する法律について解説
株式譲渡・会社分割との違い
株式譲渡は会社の所有権を移す取引で、契約や従業員はそのまま維持されます。
手続きは比較的簡便ですが、簿外債務などのリスクも含めて承継する点が特徴です。
会社分割は法律に基づく包括承継で、契約や許認可が自動的に移転する場合があります。
これに対し事業譲渡は、承継対象を自由に選べる一方、契約や許認可の個別対応が必要で、実務負担が大きくなりやすい取引です。
メリット・デメリット
事業譲渡のメリットは、承継対象を細かく調整できる点にあります。
不要資産を除外し、必要な事業だけを移すことが可能です。デメリットは、契約再締結や従業員同意など、手続きが複雑になりやすいことです。
また、許認可の再取得が必要になる場合もあり、事前の確認が欠かせません。
関連記事:会社における与信とは?与信管理の流れとポイントを解説
事業譲渡の基本的な流れ
事業譲渡は、複数の工程を順序立てて進めることで、法務・財務・労務などのリスクを抑えながら実行できます。
特に総務・法務・人事部門は、契約書の確認、従業員対応、許認可の整理など、各ステップで重要な役割を担います。
ここでは、実務担当者が押さえるべき主要プロセスを簡潔にまとめます。
基本合意
最初に、売り手と買い手が取引の方向性を確認する基本合意(LOI)を締結します。
譲渡対象、想定価格、スケジュール、独占交渉権、秘密保持など、交渉の前提となる事項を整理する段階です。
法的拘束力を持たない条項が多いものの、双方の認識を揃えることで後の条件交渉がスムーズになります。
特に、どこまでを譲渡対象とするか、DDの範囲をどう設定するかは、この段階で明確にしておく必要があります。
関連記事:デューデリジェンスとは?種類・目的・費用・注意点まで徹底解説
デューデリジェンス(DD)
続いて、買い手が事業の実態を確認するDDを実施します。
法務では契約書や許認可の有効性、財務では売上の裏付けや簿外債務、労務では未払残業代や就業規則の整合性などを確認します。
反社会的勢力との関係に関するチェックも、この段階で行われることが一般的です。
DDの結果は最終契約の条件に直結するため、売り手側にも資料の整備や説明対応が求められます。
最終契約締結
DDの結果を踏まえ、譲渡条件を確定させる最終契約を締結します。
譲渡対象、価格、表明保証、補償条項、競業避止義務など、リスク分担に関わる重要項目を詳細に規定します。
特に表明保証は、後から問題が発覚した際の責任範囲を決めるため、法務部門が慎重に検討すべきポイントです。
クロージングと引き継ぎ
契約締結後、資産や契約を実際に移転するクロージングを行います。
名義変更、取引先契約の再締結、従業員の同意取得、許認可の再取得など、実務的な手続きが中心です。
また、事業を止めないためには、ITシステム、顧客データ、業務マニュアルなどの引き継ぎ計画も重要です。
関係部門が連携し、抜け漏れなく移転作業を進めることが求められます。
関連記事:上場準備にIPO経験者は必要?経験者のスキルとIPOチームのメリットを解説
事業譲渡で必ず押さえるべき法律・契約上の注意点
事業譲渡は、資産や契約を個別に移転するため、法律・契約面の整理が不十分だと後の紛争につながりやすい取引です。
特に総務・法務部門は、譲渡対象の特定、契約書のリスク分担、許認可の扱いなど、実務的な論点を事前に把握しておく必要があります。
ここでは、事業譲渡で確認すべき主要ポイントを簡潔にまとめます。
譲渡対象の範囲の明確化
事業譲渡では、承継される資産・負債・契約を個別に特定する必要があります。
曖昧な記載は、所有権や契約の帰属を巡るトラブルにつながります。
そのため、設備・在庫・知的財産・顧客データなどをリスト化し、対象外の項目も明示しておくことが重要です。
現場部門との連携により、事業運営に必要な要素を漏れなく洗い出すことが、後の紛争防止につながります。
関連記事:知財戦略(知的財産戦略)とは?得られる効果と進め方、注意点についてわかりやすく解説
契約書でトラブルになりやすいポイント
事業譲渡契約では、表明保証、補償条項、競業避止義務など、リスク分担に関わる条項が重要です。
表明保証では、簿外債務、訴訟リスク、契約の有効性などを売り手が保証します。
内容が不十分な場合、後に発覚したリスクを巡って当事者間で紛争になる可能性があります。
また、競業避止義務は期間・地域・対象事業を適切に設定しないと、売り手の事業活動を過度に制限する恐れがあります。
さらに、取引先契約は自動承継されないため、再締結が必要な契約を事前に把握し、スケジュールに組み込むことが欠かせません。
許認可・ライセンスの扱いに関する注意点
事業譲渡では、許認可やライセンスは原則として自動承継されません。
業種によっては、許認可がなければ事業運営ができないため、買い手側は再取得の要否と手続き期間を早期に確認する必要があります。
また、ソフトウェアライセンスやSaaS契約など、第三者との利用契約も承継できないケースが多く、名義変更や再契約が必要です。
これらの手続きが遅れると、移管後の業務に支障が出るため、早めの棚卸しと関係先との調整が重要です。
関連記事:海外取引において信用調査が重要な理由とは?重点チェックすべき3つのリスクとリスクヘッジについて解説
人・モノ・情報の引き継ぎで注意すべき点
事業譲渡では、資産や契約の移転だけでなく、従業員・取引先・知的財産・データといった事業運営の基盤をどう引き継ぐかが重要です。
これらの整理が不十分だと、移管後の業務停止や顧客離脱につながる可能性があります。
総務・法務・人事部門が早期に連携し、計画的に進めることが重要です。
従業員の同意取得
事業譲渡では、従業員の雇用契約は自動的に移らず、本人の同意が必要です。
同意取得が遅れると、移管日に必要な人員が揃わない、キーパーソンが離脱するなど、事業価値に直結する問題が生じる可能性があります。
そのため、人事部門は対象者の特定、処遇条件の提示、説明会の実施などを早期に行い、不安を解消しながら同意を得ることが重要です。
関連記事:人材管理の方法は?手順やメリット、データベースの作成方法を解説
取引先契約の再締結
事業譲渡では、取引先契約は包括承継されず、原則として再締結が必要です。
契約書に譲渡禁止条項が含まれているケースも多く、事前の調整が欠かせません。
再締結が遅れると、請求・支払・サービス提供に支障が出るため、重要度の高い契約から優先的に対応します。
法務・営業・総務が連携し、移管スケジュールに合わせて取引先との合意形成を進めることが求められます。
知的財産・顧客データの承継
知的財産や顧客データは事業価値を支える重要資産です。
商標・著作権・ドメインなどは名義変更が必要で、手続き漏れがあると利用できなくなる可能性があります。
また、顧客データの移転には個人情報保護法の要件が関係し、利用目的の継続性や適切な取得経路の確認が欠かせません。
SaaSやクラウドサービスのアカウントも承継できない場合があり、再契約や設定変更が必要になるケースがあります。
関連記事:【2026年最新】個人情報保護法改正とは?企業の義務・リスク・実務対応を解説
事業譲渡で見落とされがちなリスクとその対策
事業譲渡では、契約や資産の移転に目が向きがちですが、実際には「見えにくいリスク」こそが大きな問題を引き起こします。
簿外債務や潜在訴訟、コンプライアンス違反、反社会的勢力との関係などは、DDで発覚しにくいケースもあり、譲渡後に重大な損失につながる可能性があります。
簿外債務
簿外債務は、帳簿に計上されていない負債のことで、事業譲渡における典型的なリスクです。
未払残業代、未計上の退職給付債務、修繕費の未認識などが代表例です。
これらは財務諸表からは見えにくいため、買い手は労務・財務の両面から詳細に確認する必要があります。
売り手側も、棚卸しと説明責任を果たすことで、後の紛争を防ぎやすくなります。
関連記事:データベースを使って無料で企業情報を調査する方法を解説
潜在訴訟リスク
顧客クレーム、労働問題、取引先とのトラブルなど、表面化していない紛争は事業譲渡後に顕在化することがあります。
訴訟予備軍となる案件は、社内の相談窓口やクレーム履歴を確認することで把握できます。
法務部門は、未解決の紛争や重大クレームの有無を早期に洗い出し、必要に応じて表明保証や補償条項でリスク分担を明確にすることが重要です。
コンプライアンス違反
内部統制の不備や法令違反は、譲渡後に行政処分や信用低下を招く可能性があります。
特に、個人情報保護、労務管理、業法遵守などは、事業の継続性に直結する領域です。
DDでは、規程類の整備状況、内部監査の実施状況、過去の指摘事項などを確認し、改善が必要な場合はクロージング前に対応方針を整理しておくことが求められます。
関連記事:コンプライアンスが重要視される理由とは?必要なワケを解説
反社会的勢力との関係
反社会的勢力との関係は、事業譲渡における重大なリスクの一つです。
取引先や役員に反社会的勢力との関係がある場合、金融機関との取引停止、行政指導、社会的信用の失墜など、企業存続に関わる影響が生じる可能性があります。
反社チェックを怠ることで起こり得るリスク
反社チェックを行わない場合、以下のような深刻な問題が発生するリスクがあります。
- 取引停止や契約解除による事業価値の毀損
- 金融機関からの融資停止
- 上場企業の場合、適時開示義務違反のリスク
- 社会的信用の喪失による顧客離脱
反社チェックは、代表者・役員・主要取引先を対象に、外部データベースや専門ツールを活用して行うことが効果的です。
証跡を残すことで、買い手・売り手双方のリスク管理にもつながります。
関連記事:反社会的勢力に該当する人物の家族・親族との取引や雇用は可能なのか?
デューデリジェンス(DD)で確認すべきポイント
事業譲渡では、買い手が事業の実態と潜在リスクを把握するためにDDを実施します。
DDの精度は最終契約の条件やリスク分担に直結するため、法務・財務・人事など各部門が連携し、必要な資料を正確に提供することが重要です。
ここでは、事業譲渡で特に重視される4つのDD領域を整理します。
法務DD
法務DDでは、契約書・許認可・知的財産・紛争リスクを確認します。
主要契約の有効性、譲渡禁止条項の有無、許認可の再取得の必要性は特に重要です。
また、クレームや未解決のトラブルを把握することで、潜在訴訟リスクを事前に評価できます。
関連記事:M&A法務とは?役割やプロセス、強化ポイントを徹底解説
財務DD
財務DDでは、売上の実在性、利益構造、資産評価、簿外債務の有無を確認します。
事業譲渡では対象事業の収益性を正確に把握する必要があり、部門別損益や原価構造の分析が欠かせません。
未払費用や未計上負債が潜むケースもあるため、帳簿だけでなく契約書・請求書・在庫実査など複数資料を照合します。
労務DD
労務DDでは、雇用条件、未払残業代、社会保険加入状況、就業規則の整合性を確認します。
事業譲渡では従業員の同意取得が必要となるため、対象者の特定と処遇条件の整理が重要です。
ハラスメントや労務トラブルの履歴も、譲渡後のリスクとして確認します。
関連記事:労務トラブルとは?発生時の対応手順や注意点、未然に防ぐ対策を解説
コンプライアンスDD
コンプライアンスDDでは、法令遵守体制や内部統制の状況を確認します。
個人情報保護、業法遵守、内部監査の実施状況は事業継続性に直結する領域です。
また、コンプライアンスDDの一環として、反社会的勢力との関係確認も重要です。
次章で詳しく解説します。
関連記事:コンプライアンス・リスクとは?リスク管理方法とフローを解説
事業譲渡における反社チェックの重要性
事業譲渡では、資産や契約の移転だけでなく、相手企業の健全性を確認することが欠かせません。
特に反社会的勢力との関係は、行政処分、金融取引停止、信用失墜など、企業の存続に直結する重大リスクにつながります。
反社チェックは単なる形式的な確認ではなく、事業譲渡の安全性を確保するための重要なリスク管理プロセスです。
反社チェックが必要とされる理由
反社会的勢力との関係が発覚すると、契約解除、融資停止、取引停止、顧客離脱など深刻な影響が生じる可能性があります。
暴力団排除条例などの観点からも、企業には取引相手が反社会的勢力でないことを確認する対応が求められる場面があります。
問題発覚時には、合理的な調査を行っていたかが問われる可能性もあるため、反社チェックは企業の信用維持と法令遵守の両面で重要です。
関連記事:反社チェックは義務なのか?反社会的勢力に関わる法令やチェックの方法を解説
DDにおける反社リスク確認
DDでは、法務・財務・労務の調査に加え、反社リスクの確認も重要項目です。
特にフロント企業(反社会的勢力が実質的に関与している企業)は、外見上は通常企業と変わらず、表面的な情報だけでは判断できません。
役員構成、株主、資本関係、主要取引先などを多角的に確認することで、潜在的な反社リスクを把握しやすくなります。
買い手・売り手双方が行うべき確認事項
反社チェックは買い手だけでなく、売り手側でも行うことが望ましいです。確認対象は以下のとおりです。
- 法人本体
- 代表者・役員
- 実質的支配者(UBO)
- 主要取引先
反社会的勢力は名義貸しや第三者を介して関与するケースもあるため、背後関係まで確認することが重要です。
また、契約書には暴力団排除条項を盛り込み、問題発覚時に契約解除できる体制を整えておく必要があります。
関連記事:契約書に反社会的勢力排除条項(反社条項)が必要な理由は?具体例と例文も紹介
反社チェックツールを活用するメリット
反社チェックを手作業で行うと、情報量の多さや同姓同名の誤認により、見落としや抜け漏れが発生しやすくなります。
専門ツールを活用すれば、新聞記事、官報、制裁リストなどを横断的に検索でき、効率的かつ網羅的なスクリーニングが可能です。
効率化・網羅性・証跡管理の観点から
ツール活用のメリットは次の3点です。
- 効率化:大量の対象者を短時間でチェックできる
- 網羅性:国内外のデータベースを横断検索し、見落としを防ぎやすい
- 証跡管理:調査記録を保存でき、監査・説明責任に対応しやすい
反社チェックは実施するだけでなく、その実施内容を説明できる体制を整備することも重要です。
ツール活用は、その基盤づくりに役立ちます。
関連記事:反社会的勢力と関わる16のリスクとは?リスク回避のための反社チェックについても解説
まとめ
事業譲渡では、譲渡対象の範囲、契約条項、従業員同意、取引先契約、許認可、知的財産、データ移転など、確認すべき論点が多岐にわたります。
さらに、簿外債務や潜在訴訟、コンプライアンス違反、反社会的勢力との関係など、見落としやすいリスクにも注意が必要です。
これらのリスクを抑えるには、DDを通じた実態把握に加え、関係部門が連携して早期に資料整理と手続き設計を進めることが重要です。
特に反社チェックについては、役員・株主・主要取引先まで対象を広げ、外部データベースや専門ツールを活用することで、効率的かつ網羅的な確認につながります。
自社だけで判断が難しい場合は、法務・労務・M&A実務に詳しい専門家へ早めに相談し、リスク管理体制を整えることが重要です。
関連記事:企業に欠かせないコンプライアンスオフィサーとは?主な業務・必要なスキルについて解説
関連記事:反社チェックを自動化する方法はある?ツールの機能や注意点を解説












